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思考力の芽生えを養う保育
「幼稚園教育要領解説」には、自然と関わることの意味と指導の重点として「幼児期において自然のもつ意味は大きく、自然の大きさ、美しさ、不思議さなどに直接触れる体験を通して、幼児の心が安らぎ、豊かな感情、好奇心、思考力、表現力の基礎が培われることを踏まえ、幼児が自然との関わりを深めることができるよう工夫すること」と述べられている。ここでは、自然に直接関わる体験を通して得られる様々な能力の中で、特に思考力の芽生えに着目し、それを養うための保育の在り方を考えていく。
☆不思議さを感じる エピソード1(3歳児 10月)
昼食時、A児が天井で何かが動いているのを発見する。それは、メダカのいる睡蓮鉢の水に日光が反射して天井に映っているものだった。教師は、それが何かを答えるのではなく、この不思議な体験を大切にし、幼児から考えが出るのを待った。幼児は「やきいもみたい」「トイレみたい」「うみみたい」「ボクシングみたい」「くものすみたい」「もやもやしてるね」「へびみたい」と次々に言った。
思考力というと、今までの経験を新しい場面に適用したり、工夫したりするときに働く能力に目が行きがちである。しかし、試したり工夫したりする前に、関わる対象に心を動かし、好奇心や探究心を抱くことが重要である。エピソード1は、幼児が対象に不思議さを感じて好奇心をふくらませ、様々なものに見立てて遊んだ様子である。このように見立てて遊ぶことにつながる不思議さを意図的、計画的な環境の構成により体験をさせることには、難しさがある。しかし、幼児の表情や動き、言葉を敏感にキャッチして好奇心を抱く対象を捉え、その不思議さやおもしろさを十分感じて遊ぶような機会や時間を保障することが、思考力の芽生えを養うことに有効と考える。
☆概念を壊す エピソード2(4歳児 7月)
B児は、タライの水にビワの実を入れた。当然沈むと思っていたB児は、水に浮くビワを見て驚き「重いのに浮いてる」と呟いた。
その後、B児は牛乳パックでつくった船を浮かべ、石を乗せた。当然船は沈むだろうという予測の下に石を乗せたわけだが沈まない。次に両手に余るほどの大きな石を乗せた。それでも沈まない船に驚き、友達や教師にその事実を知らせた。興味をもった友達と、「この石ならどうかな」「二つ乗せても大丈夫かな」などと言い合いながら繰り返し試した。
教師は不思議さやおもしろさを感じて遊んでいるB児の心の動きを捉え、すぐに牛乳パックの船を準備した。そのことが、不思議さを追究しながら遊ぶことにつながった。幼児は自分の中にある概念に従い、結果を予測して遊ぶ。しかしエピソード2のように、自分のもつ概念が壊されるような体験をすると、驚きや不思議さを感じる。そして、その追究を通して、新たな概念を形成していく。自分のもつ概念が壊される体験を経て、新たな概念を構築していく中でも、思考力の芽生えは養われていくと考える。
☆考えを出し合い高め合う エピソード3(4歳児 7月)
教師は、幼児が噴水によってボールが押し上げられることなどに気付くことを期待して、スプリンクラーの回転部分を取り外し、噴水のように水が出る装置をつくった。
C児は、ミニパイロンやカラーボールを噴水の力で飛ばしはじめた。D児やE児も加わり、パイロンやボールを噴水の上に持っていき水の勢いを感じながら手を放す。ものが飛ぶときと飛ばないときの違いは何か、水量を上げて水の勢いを増せばよく飛ぶのではないかと、幼児同士のやりとりから考えが生まれた。そして蛇口のハンドルを回して水量を調節する役と、ものを飛ばす役に分かれて、「出し過ぎ。近づけないよ」「これじゃ全然飛ばないよ」などと声を掛け合っていた。そうした中、F児はペットボトルの口と噴水の口とを合わせ、手で押さえはじめた。ペットボトル内の空気が水かさが増すごとに圧縮され、F児が手を放すと1mくらい飛んだ。「ロケットだ」と幼児たちの歓声があがる。幼児たちは「小さいペットボトルの方が飛ぶんじゃない」とか「もっと水を出せばいいんじゃない」とか意見を交わしながら次々と試していった。すると、F児が持ってきたペットボトルの口が噴水の口径にぴったりと合ってはまった。教師は危険を感じ、近くにいる幼児にさがるよう声を掛けた。ペットボトルは水を噴射しながら5~6m上昇した。歓声が上がる。それ以降は、ペットボトルをセットし終えると、幼児同士で「危ないぞ、さがれ」などと声を掛け合ったり、手をつないで「1・2・3・4…」とカウントダウンではなくカウントアップがはじまったりして、一体感のある遊びに発展していった。
このように、幼児同士が目的を共有すると、新しい考え(遊び)が生み出される。中には、大人も驚くような遊びに発展するときもある。教師は、そのきっかけを確実に見取り、幼児同士が考えを出し合ったり、友達の考えを受け入れたりするよう援助していく必要がある。
自然に直接関わる体験を通して思考力の芽生えを養っていくには、幼児が次のような体験を積み重ねることができる環境の構成や援助を行っていくことが大切であると考える。
○不思議さやおもしろさを感じる事象に出会う
○自分のもつ概念が壊されるような体験を味わう
○共通の目的の実現に向かって考えを出し合う
(中村 崇)
本文は、中村 崇(2011)思考力の芽生えを養う保育.初等理科教育 2011年10月号 No569.農山漁村文化協会.の一部を加筆修正し掲載